トイレの基本機能はとても単純です。座って、流す。それだけで長いあいだ成立してきた設備に、公開特許では驚くほど多くの仕事が追加されています。音楽を流し、光り、利用者を検出し、排泄物を測り、尿を採取し、自分を洗い、人に合わせて高さまで変える。
面白いのは、機能が一方向に進化していないことです。快適さを増やす特許もあれば、健康計測器へ変えようとする特許もあります。掃除を自動化するもの、持ち運べる家具へ変えるもの、立ち上がりを助けるものまであります。便器という同じ形を出発点にしながら、目指す先はかなりばらばらです。
Kohlerの現在のスマートトイレに近い方向が確認できる1件だけを「関連あり」とし、残りは実装を確認できないためunconfirmedとしています。
トイレが光・音・ふたの動きまで「自分好み」に変わる
どんな発明?
Kohlerの特許は、トイレを一つの固定動作をする設備ではなく、複数の電子機能をまとめて制御できるプラットフォームとして扱います。色を変えられる照明、スピーカー、近接センサー、遠隔操作、ふたや便座の自動開閉などが同じシステムの中に入ります。
現在のKohler Numi 2.0も、照明、スピーカー、アプリ、音声操作、自動開閉などを備えています。ただしUS20140373263A1がその製品へ一対一で実装されたと確認できる資料はないため、ここでは方向性が近い「関連あり」としています。
- ASSIGNEE
- Kohler Co
- PRIORITY
- 2013-01-23
- PUBLISHED
- 2014-12-25
- PUBLICATION
- US20140373263A1
- INVENTORS
- Eric M. Plate / Michael R. Bates / Fei Shen / Xue Jiongjun / Andy Zhu / Michael Cao / Li Ni
尿が落ちる場所を温度センサーで探しながら追いかける
どんな発明?
健康分析のために尿を採るなら、毎回同じ場所へ落ちるとは限りません。この特許では温度センサーを走査し、周囲より温度が高い領域を探して尿の位置を推定します。
狙いは、便器の内壁に付いた古いサンプルなどの影響を避けながら、新しい尿を正確に採取することです。人に『ここへしてください』と要求する代わりに、トイレ側が位置を探します。
- ASSIGNEE
- Shanghai Kohler Electronics Ltd
- PRIORITY
- 2016-04-28
- PUBLISHED
- 2022-06-09
- PUBLICATION
- US20220178129A1
- INVENTORS
- Zhiyu Qin / Qintao Sun
便座の中へ尿検査装置そのものを入れてしまう
どんな発明?
この特許は尿採取系と分析器を便座アセンブリへ組み込みます。採った尿をその場で分析し、利用者の健康データとして出力する構成です。
さらに指紋などの識別情報と分析結果を関連付ける構成も記載されています。家族で同じトイレを使っていても、誰のデータかを区別することまで設計対象です。
- ASSIGNEE
- Kohler Co
- PRIORITY
- 2018-05-31
- PUBLISHED
- 2024-06-06
- PUBLICATION
- US20240183841A1
- INVENTORS
- Luncheak Tan / Chinghua Chen
カメラが便器の中を見て、排泄物だけでなく「誰が使ったか」まで確かめる
どんな発明?
Stanford Universityの特許では、便器内のカメラで尿の流れや便を撮影し、排尿流量の推定や便の分類などへ使う構成が示されています。指紋リーダーをフラッシュ操作部へ組み込む案もあります。
さらに特許本文には、上向きのカメラで利用者の肛門部画像からいわゆるanal printを作り、指紋と照合して本人確認する実施形態まで記載されています。かなり極端ですが、測定データを正しい本人へ結び付けるという課題を真正面から扱っています。
- ASSIGNEE
- The Board of Trustees of the Leland Stanford Junior University
- PRIORITY
- 2018-07-09
- PUBLISHED
- 2023-03-14
- PUBLICATION
- US11604177B1
- INVENTORS
- Seung-Min Park / Daeyoun Won / Brian J. Lee / Sunil Bodapati / Alexander Lozano / Diego Escobedo / Sanjiv Sam Gambhir
ふたを閉じると、便器全体が密閉された分析・洗浄チャンバーになる
どんな発明?
この特許では、ふたを閉じると便器の中を密閉空間にできる構造を採ります。内部には健康分析用の機器を置け、使用後は流体出口から洗浄液を出して便器や内部部品を洗えます。
分析装置を追加すると、測定後の汚れや交差汚染が問題になります。そこでトイレ全体を一時的な『洗える実験室』のように扱い、分析とリセットを同じ筐体の中で行います。
- ASSIGNEE
- Medic Inc / Guardian Health Inc
- PRIORITY
- 2019-06-17
- PUBLISHED
- 2021-03-18
- PUBLICATION
- US20210079638A1
- INVENTORS
- David R. Hall / David Crismon / Joshua Larsen / Jared Reynolds
座っただけの荷重から、足が床についていても体重を推定する
どんな発明?
トイレで体重を測ると、普通の体重計とは違って足の一部が床へ荷重を逃がします。TOTOの特許は便座の支持部で測った着座荷重と登録時の全体重を対応付け、その人の換算関係を記憶します。
以後は座ったときの荷重だけから全身の体重を推定できます。毎日使う場所に測定を埋め込めば、『体重計に乗る』という別の習慣を作らなくてよいという発想です。
- ASSIGNEE
- Toto Ltd
- PRIORITY
- 2018-03-23
- PUBLISHED
- 2019-09-26
- PUBLICATION
- US20190290079A1
- INVENTORS
- Takeshi Takaki / Hiroshi Tsuboi / Hitoaki Higuchi / Koji Sonoda / Keisuke Tashiro / Tomohiro Hara / Yo Morotomi
小さな清掃ユニットが便座の輪に沿って自分で走る
どんな発明?
この特許は便座そのものを回転させるのではなく、清掃ユニットの方を便座の輪郭に沿って走らせます。ユニットはスポンジやブラシ、ワイパーなどを備え、水圧を動力として移動する構成です。
公共トイレの清掃を人の作業から切り離す発想ですが、見た目は『便座専用の小さな自走クリーナー』に近いものです。固定設備の表面を、機械が一周して掃除します。
- ASSIGNEE
- Ille Papier Service GmbH
- PRIORITY
- 2000-12-23
- PUBLISHED
- 2004-03-04
- PUBLICATION
- US20040040075A1
- INVENTORS
- Wilhelm Blatz / Michael Lenhard / Andreas Heub-Schneider
畳めば箱。開けば椅子。さらに中央を開けるとトイレになる
どんな発明?
この特許は折り畳める側板を持つ軽量な箱を、トイレ、スツール、テーブルとして使い分けます。座面中央のふたを開ければ内部の袋へアクセスでき、閉じれば普通の平面として使えます。
折り畳める構造によって、トイレを持ち運べる家具として扱っています。必要なときだけ用途を切り替え、使わないときは薄く畳めます。
- ASSIGNEE
- Individual
- PRIORITY
- 2008-09-05
- PUBLISHED
- 2010-03-11
- PUBLICATION
- US20100058527A1
- INVENTORS
- David W. Richardson
座る人を見て、トイレ自身が高さと角度を合わせにくる
どんな発明?
この特許は便座や便器を内部フレームで支え、モーター駆動の昇降機構で高さや角度を変えます。センサーから利用者の特徴を読み取り、その人に合わせた持ち上げ方を選ぶ構成です。
立ち上がりを助ける補助具をトイレの周りへ後付けするのではなく、便器そのものが利用者を支える機械になります。背の高い人、低い人、子ども、立ち上がりに支援が必要な人へ、一台が形を変えて対応する発想です。
- ASSIGNEE
- Medic Inc / Guardian Health Inc
- PRIORITY
- 2019-06-17
- PUBLISHED
- 2020-12-17
- PUBLICATION
- US20200390297A1
- INVENTORS
- David R. Hall / David Crismon
AFTER THE FIGURES
トイレは家の中で最も自然に「毎日測れる場所」になろうとしている
最初は快適設備だったものが、センサーを積むと急に計測装置へ変わります。近づいた人を検知し、尿の落ちる位置を探し、便座の内部でサンプルを分析し、カメラや指紋で利用者とデータを結び付ける。毎日必ず使う場所だからこそ、測定を意識させず継続できるという発想が繰り返し現れます。
便座を洗う小さな清掃機が一周し、箱のような家具が必要なときだけトイレへ変わり、座る人に合わせて便器や座面そのものが上下する。衛生、携帯性、アクセシビリティという別の方向でも、固定設備だったトイレが動き始めます。
9件を並べると、変わっているのは便器の見た目以上に『トイレで何をするか』です。排泄を処理する場所から、快適さを調整し、身体を観察し、自分を清掃し、利用者へ形を合わせる場所へ。特許の中では、いちばん動かなそうな設備が意外なほど多機能な機械へ変わっています。
SOURCES
一次資料
- US20140373263A1 — Smart toilet systems and methods
- US20220178129A1 — Smart toilet with automatic urine position detecting system
- US20240183841A1 — Health seat for toilets and bidets
- US11604177B1 — Smart toilet for human health monitoring
- US20210079638A1 — Toilet with lid for sealing bowl for analysis and washing
- US20190290079A1 — Toilet seat device
- US20040040075A1 — Device for cleaning a toilet seat
- US20100058527A1 — Portable Toilet, Stool and Table
- US20200390297A1 — Toilet with Personalized Lifting System
