空を飛ぶ機械には、翼があり、胴体があり、人はその中へ乗る。100年以上かけて見慣れた「飛行機らしい形」があります。ところが特許図面を横断していくと、その前提から外れた飛び方が次々に現れます。人間の腕そのものを推力偏向装置にし、巨大な翼を人力で羽ばたかせ、四つの大きなダクトファンで人を持ち上げる。
機体の形も固定ではありません。飛行フレームだけが迎えに来て乗客ポッドを拾い、別々の航空機が空中で翼端同士をつなぐ。ドローンは飲料ボトルに化け、翼はガスで一瞬に伸び、鳥の風切羽のような板を何枚も動かして形を変えます。最後には、翼そのものが巨大な輪になり、人はコクーン型のカプセルへ包まれます。
企業や時代を超えて、「飛び方」や「飛ぶための形」を変える発明が公開特許に残っています。Gravity Jet SuitとBell Nexusには近い公開製品・試作機がありますが、今回の各特許番号との一対一対応は確認できていません。
飛行機に乗らず、人間の腕と背中にジェットを付ける
どんな発明?
Gravity Industriesの「A flight system」は、人が背中と両手に推進装置を装着して飛ぶシステムです。FIG. 3A・3Bには、背中側の装置に加えて左右の腕へ複数の推進器を持つ人物が描かれています。
固定翼やローターで機体全体の姿勢を制御するのではなく、利用者が腕を動かして左右の推力方向を変えます。つまり操縦桿を操作する人と、推力を向ける機構が同じ身体に重なっています。
- ASSIGNEE
- Gravity Industries Ltd.
- PRIORITY
- 2017-02-22
- PUBLISHED
- 2019-12-19
- PUBLICATION
- US20190382114A1
- INVENTORS
- Richard Browning
ペダルの力で巨大な翼を鳥のように羽ばたかせる
どんな発明?
米国で公開された「Man-powered ornithopter-sailplane」は、人の筋力で翼を羽ばたかせる航空機を描いています。FIG. 1では操縦者を中心に細長い胴体と左右の大きな翼が配置され、鳥の翼のように動かすための構成が示されています。
一般的な人力飛行機は固定翼とプロペラの組み合わせが多いのに対し、この案は翼そのものの周期運動を推進と揚力に使います。飛行機を人力化するのではなく、鳥の飛び方を機械へ戻しているところが特徴です。
- ASSIGNEE
- Individual
- PRIORITY
- 2003-09-11
- PUBLISHED
- 2007-02-08
- PUBLICATION
- US20070029441A1
- INVENTORS
- Remigijus Dainys
四つの巨大ダクトファンを乗り物の四隅に置く
どんな発明?
Bell Helicopter Textronの「Personal air vehicle with ducted fans」は、機体の前後左右に四つの大きなダクトファンを置いた個人用航空機です。FIG. 1では操縦席を囲むように円形ファンが配置され、左右のファンは機体に対して向きを変えられます。
特許は滑走路を必要としないdoor-to-door型の個人移動を想定しています。ヘリコプターのような大きな一枚のローターではなく、複数のファンを機体の輪郭へ埋め込むことで、飛行機ともヘリコプターとも違う姿になっています。
- ASSIGNEE
- Bell Helicopter Textron Inc.
- PRIORITY
- 2017-06-14
- PUBLISHED
- 2018-12-20
- PUBLICATION
- US20180362160A1
- INVENTORS
- Kirk L. Groninga / John Lloyd / Daniel B. Robertson
飛行フレームだけが迎えに来て乗客ポッドを拾う
どんな発明?
Bellの「Aircraft with selectively attachable passenger pod assembly」は、ローターや翼を持つflying frameと、乗客が入るpod assemblyを分け、飛行フレームが必要なポッドへ出向いて結合します。
FIG. 4A〜4Cでは、飛行フレームが地上のポッドへ横から近づき、上から覆う位置へ移動して結合するまでが連続図で描かれます。目的地では再び切り離せるため、一つの飛行フレームを複数の客室で使い回せます。
- ASSIGNEE
- Bell Helicopter Textron Inc.
- PRIORITY
- 2016-07-01
- PUBLISHED
- 2018-05-08
- PUBLICATION
- US9963228B2
- INVENTORS
- John Richard McCullough / Paul K. Oldroyd
飛行中の二機を翼の先端どうしで合体させる
どんな発明?
Aurora Flight Sciencesの「Wing tip docking system for aircraft」は、その名の通り飛行中の航空機同士を翼端で接続するための仕組みです。FIG. 3では二機の翼端が向き合い、一方から伸びる柔軟な部材とドッキング機構が描かれています。
翼端付近には強い渦があるため、単に近づけば安定して接続できるわけではありません。特許は空気流を調整し、まずsoft dockingで位置関係を作った後、hard docking機構で一時的に固定する流れを説明しています。
- ASSIGNEE
- Aurora Flight Sciences Corp. (original assignee)
- PRIORITY
- 2007-09-14
- PUBLISHED
- 2011-11-22
- PUBLICATION
- US8061646B2
- INVENTORS
- Martin L. Gomez / Robert Parks / Adam J. Woodworth
飲料ボトルに見える胴体から翼とプロペラが出てくる
どんな発明?
University of Florida Research Foundationの「Morphing aircraft」は、UAVを小さく畳むだけではなく、別の物に見せるところまで踏み込みます。FIG. 2では、飲料ボトルのような円筒胴体から翼、尾翼、プロペラが展開しています。
特許本文は、Gatoradeのプラスチックボトルのような飲料容器を胴体として使う実施例まで説明し、外装の色やtrade dressを消費者向けブランドの容器に似せる構成も記載しています。飛んでいない時にはUAVだと分かりにくくする発想です。
- ASSIGNEE
- University of Florida Research Foundation, Inc.
- PRIORITY
- 2008-08-25
- PUBLISHED
- 2014-11-18
- PUBLICATION
- US8888035B2
- INVENTORS
- Richard Charles Lind Jr. / Daniel Thurmond Grant / David Eaton
格納した翼をガスで一気に「発射」して伸ばす
どんな発明?
Boeingへ譲渡された「Ballistically deployed telescoping aircraft wing」は、翼をゆっくり機械的に伸ばすのではなく、圧縮ガスやpyrotechnic gas generatorを使って短時間で展開する構想です。FIG. 6A〜6Cには翼内部の入れ子部分が移動する過程が描かれます。
特許は、格納時にはできるだけ小さな体積へ収め、必要になった時には一秒未満のような短い時間で空力面積を増やすことを狙っています。伸び切った後はラッチ機構で位置を固定します。
- ASSIGNEE
- The Boeing Company (assignment recorded)
- PRIORITY
- 2006-06-09
- PUBLISHED
- 2009-08-20
- PUBLICATION
- US20090206193A1
- INVENTORS
- David J. File
鳥の風切羽のような板を並べて翼そのものを変形させる
どんな発明?
JAXAの「Morphing wing」は、一枚の硬い翼を回転させるのではなく、鳥の風切羽のように細長い翼面を何枚も並べて形を変えます。FIG. 1には左右に羽根状部材を持つ機体全体、FIG. 2にはそれらを支えるリンク機構が大きく描かれます。
複数の部材を連動させれば、翼端の形、展開量、後退角などを飛行状態に合わせて変えられます。鳥が羽根を一本ずつ完全に独立制御せず、重なり方を変えて翼全体を作るのに近い考え方です。
- ASSIGNEE
- Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA)
- PRIORITY
- 2019-08-27
- PUBLISHED
- 2022-09-08
- PUBLICATION
- US20220281585A1
- INVENTORS
- Daichi Wada
翼を巨大な輪にしてその輪へプロペラを並べる
どんな発明?
Textron Innovationsの「Distributed propulsion system」には、機体の周囲を囲む閉じた翼・フレームへ多数のプロペラを配置した実施例があります。FIG. 5Aでは、中央の胴体を大きな輪が囲み、その輪の各所に小型プロペラが並びます。
特許の中心は、複数の油圧または電動モーターへエネルギーを分散して供給し、それぞれを制御する推進システムです。大きな一つのローターではなく、機体全体へ推進器を分散配置することで、従来機とは全く違う輪郭が生まれています。
- ASSIGNEE
- Textron Innovations Inc.
- PRIORITY
- 2016-05-13
- PUBLISHED
- 2023-03-14
- PUBLICATION
- US11603203B2
- INVENTORS
- Carlos Alexander Fenny / Rohn Lee Olson
人を「コクーン」に入れてそのカプセルごと垂直に飛ばす
どんな発明?
Alberto Carlos Pereira Filhoによる「Vertical take-off and landing cocoon-type flying vehicle」は、個人を外気へ露出させず、コクーン状のカプセルに包んで飛ばす発明です。FIG. 1・2では、卵形の胴体、窓付きドア、外側の推進ユニット、着陸用スキッドが描かれます。
特許は一人用を主に想定しつつ、二人用にも構成できると説明しています。人が跨がるタイプの飛行装置やJet Suitとは反対に、身体をできるだけ機体の内側へ隠し、小さな個室そのものを空へ持ち上げます。
- ASSIGNEE
- Individual
- PRIORITY
- 2019-07-03
- PUBLISHED
- 2022-11-10
- PUBLICATION
- US20220355922A1
- INVENTORS
- Alberto Carlos Pereira Filho
AFTER THE FIGURES
未来の飛行では「飛行機の形」がなくなっていく
10件の発明では、人の身体が機体の一部になり、別々だった翼と機体が空中で結合し、乗客室と飛行装置が分離します。必要な瞬間だけ翼を伸ばし、用途に合わせて形を変える発想も繰り返し現れます。
面白いのは、同じ目的へ全く違う答えが出ていることです。垂直に離陸したいなら巨大なダクトファンでも、輪状の翼でも、コクーンの外側に付けた推進器でもよい。小さく収納したいなら翼を畳むだけでなく、ガスで伸ばしたり、飲料ボトルの中へ隠したりもできます。
こうした発明が組み替えるのは、翼・胴体・客室を一つにまとめた「飛行機」という形です。未来の空には、飛行機らしくないものほど自然に飛んでいるのかもしれません。
SOURCES
一次資料
- US20190382114A1 — A flight system
- US20070029441A1 — Man-powered ornithopter-sailplane
- US20180362160A1 — Personal air vehicle with ducted fans
- US9963228B2 — Aircraft with selectively attachable passenger pod assembly
- US8061646B2 — Wing tip docking system for aircraft
- US8888035B2 — Morphing aircraft
- US20090206193A1 — Ballistically deployed telescoping aircraft wing
- US20220281585A1 — Morphing wing, flight control device, flight control method, and storage medium
- US11603203B2 — Distributed propulsion system
- US20220355922A1 — Vertical take-off and landing cocoon-type flying vehicle
