クルマの未来というと、速さ、航続距離、自動運転の性能が語られがちです。でも特許図面を横断して眺めると、もっと妙な変化が見えてきます。車輪だけで走る必要がなくなり、ワイパーがレーザーに置き換わり、塗装色は固定ではなくなり、ハンドルとペダルまで取り外されます。

さらに自動運転を前提にすると、座席は家具へ変わり、窓や車体は表示装置になり、ドローンが車外へ飛び出します。Hyundai / Kia、Tesla、Toyota、Ford、GM、Aurora、Hondaの公開特許には、そうしたクルマの前提を変える発明が描かれています。

FIG. 01

クルマに脚が生えて四つの車輪で「歩く」

SOURCE FIGURESFIG. 4C
PUBLICATIONUS20230211841A1
四本の脚の先に車輪を持ち、車高や脚の姿勢を大きく変えられる歩行車両。
FIG. 01US20230211841A1
車体から四本の多関節脚を伸ばし、その先端の車輪で地面に立つ歩行車両の特許図面

四本の脚の先に車輪を持ち、車高や脚の姿勢を大きく変えられる歩行車両。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

HyundaiとKiaの特許は、普通のタイヤを車体へ直接付けるのではなく、複数の関節を持つ脚の先に車輪を配置します。平坦な場所では車輪で走り、難しい地形では脚を動かして車体の位置や姿勢を変えられます。

明細書では、車輪と脚を組み合わせることで全方向の移動を可能にし、哺乳類型・爬虫類型の歩行まで想定しています。FIG. 4Cでは、車体が地面から持ち上がり、四つの車輪付き脚で立つ姿がそのまま描かれています。

Hyundai Motor Company / Kia CorporationFIG. 01
ASSIGNEE
Hyundai Motor Company / Kia Corporation
PRIORITY
2021-12-31
PUBLISHED
2023-07-06
PUBLICATION
US20230211841A1
INVENTORS
Ernestine Fu / Grey Parker / John Suh / Daniel Chan / David Byron / Prasanna Natarajan
ORIGINAL
FIG. 02

ワイパーではなくレーザーで窓の汚れを落とす

SOURCE FIGURESFIG. 2B
PUBLICATIONUS20220089128A1
車体にレーザー光学系を配置し、ガラス表面の汚れがある領域へ光を照射する。
FIG. 02US20220089128A1
車両のフロントガラスなどへレーザーを照射する位置を示した特許図面

車体にレーザー光学系を配置し、ガラス表面の汚れがある領域へ光を照射する。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Teslaの特許は、ガラス上の汚れを検出し、その領域へパルスレーザーを照射して除去する仕組みです。対象はフロントガラスだけでなく、車両の窓やミラー、カメラ用ガラスなども想定されています。

FIG. 2Bには、車体の複数箇所に光学系を配置する例が描かれています。物理的なブレードを往復させる代わりに、必要な場所へ非接触でエネルギーを送る発想です。

Tesla, Inc.FIG. 02
ASSIGNEE
Tesla, Inc.
PRIORITY
2018-05-16
PUBLISHED
2022-03-24
PUBLICATION
US20220089128A1
INVENTORS
Phiroze Dalal
ORIGINAL
FIG. 03

光と熱を当てて車体の塗装色そのものを変える

SOURCE FIGURESFIG. 2A
PUBLICATIONUS11931773B1
車体へ外部からエネルギーを与え、温度などを制御して外装塗装の色を変える。
FIG. 03US11931773B1
車両を大きな処理領域で覆い、車体塗装へエネルギーを与える構成を示した特許図面

車体へ外部からエネルギーを与え、温度などを制御して外装塗装の色を変える。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Toyotaの「Tunable exterior paint color」は、外装塗料の見える色を変化させるため、車体へ熱や光などのエネルギーを与える仕組みを扱っています。図面では、車体全体を処理できる大きな領域と、その中に置かれた車両が描かれます。

購入時に選んだボディカラーを固定値として扱うのではなく、塗装を変化させられる対象として扱う発想です。

Toyota Motor Engineering & Manufacturing North America, Inc.FIG. 03
ASSIGNEE
Toyota Motor Engineering & Manufacturing North America, Inc.
PRIORITY
2022-10-12
PUBLISHED
2024-03-19
PUBLICATION
US11931773B1
INVENTORS
Lauren M. Abro / Yuko N. Gidcumb / Michelle R. Vargo / Lindsay A. Babian
ORIGINAL
FIG. 04

自動運転になったらハンドルとペダルを丸ごと外す

SOURCE FIGURESFIG. 1, FIG. 3
PUBLICATIONUS9963035B2
左が手動操作部を取り付けた状態、右がステアリングホイールと床ペダルを外した状態。
FIG. 04US9963035B2
ハンドルと床ペダルがある運転席と、それらを取り外した運転席を並べたFordの特許図面

左が手動操作部を取り付けた状態、右がステアリングホイールと床ペダルを外した状態。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Fordの特許は、ステアリングホイールを含むモジュールと、アクセル・ブレーキを含む床側のペダルモジュールを取り外せるようにします。ハンドルを外したダッシュボードの穴には、別のフィラーモジュールを取り付ける構成です。

FIG. 1とFIG. 3を並べると、ドライバーの姿勢は同じなのに、手と足の先にあった操作装置だけが消えます。自動運転時には、それらが常設部品である必要はないという設計です。

Ford Global Technologies, LLCFIG. 04
ASSIGNEE
Ford Global Technologies, LLC
PRIORITY
2016-02-05
PUBLISHED
2018-05-08
PUBLICATION
US9963035B2
INVENTORS
Steven R. El Aile / John P. Joyce / Andrew Brown / Scott J. Lauffer / Samer Abbas
ORIGINAL
FIG. 05

霧で見えない人や物をフロントガラス上に出現させる

SOURCE FIGURESFIG. 2, FIGS. 4A–4C
PUBLICATIONUS11766938B1
肉眼では見えにくい対象がある位置へ、フロントガラス上の警告記号を重ねる。
FIG. 05US11766938B1
前方道路へ警告記号を重ねるARヘッドアップディスプレイと、車・動物・歩行者の警告アイコンを示す特許図面

肉眼では見えにくい対象がある位置へ、フロントガラス上の警告記号を重ねる。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

GMの特許は、センサーでは検出できているのに、霧や暗さなどで運転者からは視認しにくい対象をAR HUDで知らせます。通知記号を単に画面の隅へ出すのではなく、その物体が本来見える位置へ重ねるのがポイントです。

図面には道路上の重畳位置に加え、車両、動物、歩行者を表す警告記号の例まで描かれています。

GM Global Technology Operations LLCFIG. 05
ASSIGNEE
GM Global Technology Operations LLC
PRIORITY
2022-03-23
PUBLISHED
2023-09-26
PUBLICATION
US11766938B1
INVENTORS
John P. Weiss / Joseph F. Szczerba / Omer Tsimhoni / Thomas A. Seder / Kai-Han Chang
ORIGINAL
FIG. 06

座席の背もたれを倒すと車内が会議室になる

SOURCE FIGURESFIG. 9
PUBLICATIONUS20240253529A1
向かい合う座席の中央に水平なテーブル面を作る `meeting configuration`。
FIG. 06US20240253529A1
向かい合う座席の間に、倒した座席背面を利用したテーブル面がある自動運転車の特許図面

向かい合う座席の中央に水平なテーブル面を作る `meeting configuration`。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Auroraの特許は、自動運転車の座席を複数の配置へ切り替える仕組みを扱っています。その一つが本文で `meeting configuration` と呼ばれる構成で、座席の背もたれを倒してテーブルとして使います。

運転する人を前向きに固定する必要がなくなると、座席は移動中の身体を支えるだけでなく、車内の用途そのものを切り替える家具になります。

Aurora Operations, Inc.FIG. 06
ASSIGNEE
Aurora Operations, Inc.
PRIORITY
2020-06-04
PUBLISHED
2024-08-01
PUBLICATION
US20240253529A1
INVENTORS
Daniel Adam Kanitz
ORIGINAL
FIG. 07

車内の床やシート背面がそのままゲーム画面になる

SOURCE FIGURESFIG. 2
PUBLICATIONUS9101824B2
車内の床やシート背面を投影面として使い、乗員の動きに応じてゲーム画像の位置を変える。
FIG. 07US9101824B2
後席の乗員と左右の投影・撮像装置、車内に投影されたゲーム画像を示すHondaの車内バーチャルゲーム特許図面

車内の床やシート背面を投影面として使い、乗員の動きに応じてゲーム画像の位置を変える。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

HondaのUS9101824B2は、車内そのものをバーチャルゲーム空間として使う仕組みを描いています。FIG. 2では、後席の乗員の左右に投影・撮像装置を配置し、床やシート背面などの車内面へ仮想画像を投影する構成が示されています。

装置は投影した画像の位置と乗員のジェスチャーを追跡し、その結果に応じて次の画像位置を計算します。つまり、固定ディスプレイの中だけで遊ぶのではなく、車内の物理空間そのものがゲーム面になります。

Honda Motor Co LtdFIG. 07
ASSIGNEE
Honda Motor Co Ltd
PRIORITY
2013-03-15
PUBLISHED
2015-08-11
PUBLICATION
US9101824B2
INVENTORS
Duane Matthew Cash
ORIGINAL
FIG. 08

クルマからドローンが飛び出して周囲へ警告する

SOURCE FIGURESFIG. 1A, FIG. 1B
PUBLICATIONUS20190313228A1
警告信号を受けると車載ドローンを展開し、車両を追尾しながら周囲へ警告を提示する。
FIG. 08US20190313228A1
車体に収納されたドローンと、車両上空へ展開して追従するドローンを並べたFordの特許図面

警告信号を受けると車載ドローンを展開し、車両を追尾しながら周囲へ警告を提示する。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Fordのシステムは、車両が警告信号を受けると搭載ドローンを展開し、そのドローンへ車両を追従させながら知覚可能な警告を出すよう指示します。

FIG. 1Aではドローンが車体側にあり、FIG. 1Bでは空中へ出ています。故障車や異常車両そのものだけでなく、別の物体を車外へ飛ばして警告範囲を広げる発想です。

Ford Global Technologies, LLCFIG. 08
ASSIGNEE
Ford Global Technologies, LLC
PRIORITY
2016-07-07
PUBLISHED
2019-10-10
PUBLICATION
US20190313228A1
INVENTORS
Francisco Javier Ferreira / Gerardo Velazquez Monroy / Joan Manuel Hernandez / Erick Garcia Dominguez
ORIGINAL
FIG. 09

透明な車体外板を外向きの電子ペーパーにする

SOURCE FIGURESFIG. 8C
PUBLICATIONUS20200310215A1
透明外板に配置した電子ペーパーで、車外側へ文字や映像を表示する例。
FIG. 09US20200310215A1
車体側面の大きな透明外板に電子ペーパーでTOYOTAの文字を外向き表示する特許図面

透明外板に配置した電子ペーパーで、車外側へ文字や映像を表示する例。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Toyotaの日本公開公報は、透明な車体外板へ電子ペーパーを配置し、車外へ映像を表示する構成です。電子ペーパーには光を通す領域を残し、車内の乗員が閉塞感を感じにくくすることも狙っています。

FIG. 3には構造の詳細が、FIG. 8Cには車体側面の大きな面へ「TOYOTA」と文字を表示する例が描かれています。

Toyota Motor CorpFIG. 09
ASSIGNEE
Toyota Motor Corp
PRIORITY
2019-03-29
PUBLISHED
2020-10-01
PUBLICATION
US20200310215A1
INVENTORS
Ai Nishida
ORIGINAL
FIG. 10

自動運転中は前席を後ろへ向けて乗員同士が向かい合う

SOURCE FIGURESFIG. 3A, FIG. 3B
PUBLICATIONUS9199553B2
自動運転モードでは、座席を前向き位置から後ろ向き位置へ動かせる。
FIG. 10US9199553B2
自動運転車の前席を通常の前向き状態と後席側へ向けた状態で示すFordの特許図面

自動運転モードでは、座席を前向き位置から後ろ向き位置へ動かせる。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Fordの特許は、自動運転時に乗員が運転以外のことへ集中できるよう、車内座席を再構成する仕組みを扱っています。本文では少なくとも一つの座席を前向き位置から後ろ向き位置へ動かせると説明しています。

FIG. 3AとFIG. 3Bでは、前席まわりの座席構成が変わる様子が描かれています。前を見るために作られていた運転席が、後席の人と同じ空間を囲む座席へ変わります。

Ford Global Technologies, LLCFIG. 10
ASSIGNEE
Ford Global Technologies, LLC
PRIORITY
2013-11-20
PUBLISHED
2015-12-01
PUBLICATION
US9199553B2
INVENTORS
Mark A. Cuddihy / Manoharprasad K. Rao
ORIGINAL

AFTER THE FIGURES

速くなるより先に「クルマらしさ」が減っていく未来

10件を並べると、追加される機能より、消えていく固定観念の方が目立ちます。車輪だけで移動する、ワイパーで窓を拭く、車体色は塗ったら固定、運転席にはハンドルとペダルがある。そうした前提が一件ずつ外されています。

自動運転の影響は特に大きく、運転操作をしなくてよくなった瞬間に、運転席は「前を向く場所」である必要まで薄れます。AuroraのテーブルやFordの回転座席は、クルマの室内を移動のための座席配置ではなく、会議室や居間のように捉え直しています。

クルマの特許に残っているのは、車輪、窓、塗装、運転席、車体という「クルマをクルマらしく見せていた部品」が、別の役割へ変わっていく未来です。

SOURCES

一次資料

  1. US20230211841A1 — Walking vehicle
  2. US20220089128A1 — Pulsed laser cleaning of debris accumulated on glass articles in vehicles and photovoltaic assemblies
  3. US11931773B1 — Tunable exterior paint color
  4. US9963035B2 — Removable steering wheel and pedals for autonomous vehicle
  5. US11766938B1 — Augmented reality head-up display for overlaying a notification symbol over a visually imperceptible object
  6. US20240253529A1 — Passenger Seats and Doors for an Autonomous Vehicle
  7. US9101824B2 — Method and system of virtual gaming in a vehicle
  8. US20190313228A1 — Vehicle-integrated drone
  9. US20200310215A1 — Vehicular display and vehicle including the same
  10. US9199553B2 — Autonomous vehicle with reconfigurable seats