クルマの形は長いあいだ、運転する人を中心に決まってきました。前を向く座席、手の届く位置にあるハンドル、走行情報を見せる画面。けれど自動運転や電動化、ロボットとの連携を前提にすると、その配置は必ずしも固定ではありません。

Fordの特許を並べると、クルマの中がリビングや映画館、仕事場へ変わり、荷台は作業道具になり、車体からドローンが飛び出します。さらにクルマは配送ロボットを助け、外へ情報を投影し、場合によっては人の操作を待たず自分で移動する主体として扱われます。

これら10件は公開されたUS特許に記載された発明です。実際のFord F-150には近い方向のInterior Work Surfaceがありますが、ここで扱うデスクの特許との一対一の実装関係は確認できませんでした。

FIG. 01

自動運転になったら、前席が後ろを向いて会話の席になる

SOURCE FIGURESFIG. 5, FIG. 6
PUBLICATIONUS20150142273A1
US20150142273A1 / FIGS. 5–6。前席を後ろ向きにして、車内を対面配置へ組み替える過程を示す。
FIG. 01US20150142273A1
Fordの自動運転車向け可変座席の特許図面。前席と後席を向かい合わせにする車内配置が描かれている。

US20150142273A1 / FIGS. 5–6。前席を後ろ向きにして、車内を対面配置へ組み替える過程を示す。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

この特許では、自動運転中に前席を後ろ向きへ回転させたり、シートを折り畳んでインストルメントパネル下へ移動させたりする構成が示されています。中央コンソールも移動し、向かい合った乗員がテーブルのように使える配置が想定されています。

運転者が常に前を向く必要がなくなれば、車内は一方向の座席列である必要もなくなります。乗員同士が向き合うことで、車内での会話の形も変わります。

Ford Global Technologies LLCFIG. 01
ASSIGNEE
Ford Global Technologies LLC
PRIORITY
2013-11-20
PUBLISHED
2015-05-21
PUBLICATION
US20150142273A1
INVENTORS
Mark A. Cuddihy / Manoharprasad K. Rao
ORIGINAL
FIG. 02

運転しない時間だけ、車内に大きなスクリーンが現れる

SOURCE FIGURESFIG. 2A, FIG. 2B
PUBLICATIONUS20150094896A1
US20150094896A1 / FIGS. 2A–2B。自動運転モードでスクリーンとプロジェクターを使い、通常運転へ戻ると表示を切り替える。
FIG. 02US20150094896A1
Fordの自動運転車エンターテインメントシステムの特許図面。車内で展開されるプロジェクターとスクリーンが示されている。

US20150094896A1 / FIGS. 2A–2B。自動運転モードでスクリーンとプロジェクターを使い、通常運転へ戻ると表示を切り替える。

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どんな発明?

自動運転モードでは、車内に展開したスクリーンへプロジェクターで映像を表示します。運転者が再び操作する必要が生じれば、映像を別のディスプレイへ移し、運転に必要な視界を戻す構成です。

運転している時間と任せている時間で、使う表示装置を切り替えます。車内が一時的なシアターへ変わる発想です。

Ford Global Technologies LLCFIG. 02
ASSIGNEE
Ford Global Technologies LLC
PRIORITY
2013-09-30
PUBLISHED
2015-04-02
PUBLICATION
US20150094896A1
INVENTORS
Mark A. Cuddihy / Manoharprasad K. Rao
ORIGINAL
FIG. 03

ダッシュボードをめくるように、机が手前へ伸びてくる

SOURCE FIGURESFIG. 2
PUBLICATIONUS20240025322A1
US20240025322A1 / FIG. 2。連結パネルがトラックに沿って曲がりながら移動し、ダッシュボードから作業面を展開する。
FIG. 03US20240025322A1
Fordの展開式ワークデスクの特許図面。ダッシュボードから複数パネルの机が乗員側へ展開している。

US20240025322A1 / FIG. 2。連結パネルがトラックに沿って曲がりながら移動し、ダッシュボードから作業面を展開する。

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どんな発明?

複数の細長いパネルをつないだ机が、ダッシュボード内の曲線状トラックに沿って移動します。収納時は車内トリムに沿って収まり、使うときは乗員側へせり出して平らな作業面になります。

Fordは実車のF-150でもInterior Work Surfaceを提供しています。ただしこの特許と製品の直接の対応関係は確認していません。

Ford Global Technologies LLCFIG. 03
ASSIGNEE
Ford Global Technologies LLC
PRIORITY
2022-07-25
PUBLISHED
2024-01-25
PUBLICATION
US20240025322A1
INVENTORS
Stuart C. Salter / David Brian Glickman / Dustin Shedlarski / Micah Jones / Ryan Welch
ORIGINAL
FIG. 04

テールゲートを開くと、中から脚付きの作業台が出てくる

SOURCE FIGURESFIG. 3, FIG. 4
PUBLICATIONUS20180072242A1
US20180072242A1 / FIGS. 3–4。テールゲートを開き、収納部からソーホースを引き出して展開する。
FIG. 04US20180072242A1
Fordのテールゲート内蔵ソーホースの特許図面。荷台後端に収納された脚付き支持台の構造が描かれている。

US20180072242A1 / FIGS. 3–4。テールゲートを開き、収納部からソーホースを引き出して展開する。

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どんな発明?

特許は、ピックアップのテールゲート内部にソーホースを収めるための空間をつくり、必要なときに引き出して脚を開ける構成を示します。積み荷のスペースを恒常的に奪わず、車体そのものを作業道具の収納場所にします。

クルマが現場へ道具を運ぶだけでなく、車体の一部がそのまま作業環境をつくる。車外へ展開することで、キャビンだけではない「仕事場としてのクルマ」が見えてきます。

Ford Global Technologies LLCFIG. 04
ASSIGNEE
Ford Global Technologies LLC
PRIORITY
2016-09-15
PUBLISHED
2018-03-15
PUBLICATION
US20180072242A1
INVENTORS
Brian Robert Spahn / Pattrick Loew
ORIGINAL
FIG. 05

クルマの中からドローンが飛び出し、周囲を照らして見張る

SOURCE FIGURESFIG. 1A, FIG. 1B
PUBLICATIONUS20190313228A1
US20190313228A1 / FIGS. 1A–1B。車内に格納したドローンを展開し、車両を追従させたり光やサイレンで警告したりする。
FIG. 05US20190313228A1
Fordの車載ドローンの特許図面。車体からドローンが展開され、車両の上空を飛ぶ様子が描かれている。

US20190313228A1 / FIGS. 1A–1B。車内に格納したドローンを展開し、車両を追従させたり光やサイレンで警告したりする。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

警報を受けると車両が収納部を開き、内部に固定されていたドローンを解放します。ドローンは車両の上空へ出て追従し、ライトやサイレンなどで周囲へ警告できます。

ドローンを独立した機械として持ち歩くのではなく、クルマの感覚器や警告装置を空中へ延長するように組み込んでいます。車体から離れて動ける「外付けの目と灯り」です。

Ford Global Technologies LLCFIG. 05
ASSIGNEE
Ford Global Technologies LLC
PRIORITY
2016-07-07
PUBLISHED
2019-10-10
PUBLICATION
US20190313228A1
INVENTORS
Francisco Javier Ferreira / Gerardo Velazquez Monroy / Joan Manuel Hernandez / Erick Garcia Dominguez
ORIGINAL
FIG. 06

配送ロボットが迷ったら、家のカメラが道を教える

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20220113731A1
US20220113731A1 / FIG. 1。建物側のセキュリティシステムが画像や経路情報を渡し、配送ロボットの最終区間の移動を支援する。
FIG. 06US20220113731A1
Fordの配送ロボット支援システムの特許図面。自動車から降りた配送ロボットと建物、セキュリティカメラ、玄関が描かれている。

US20220113731A1 / FIG. 1。建物側のセキュリティシステムが画像や経路情報を渡し、配送ロボットの最終区間の移動を支援する。

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どんな発明?

配送ロボットが建物の敷地へ着いたあと、建物側のセキュリティシステムからカメラ画像などを受け取り、目印や玄関までの経路を判断します。認証が通れば、ゲートやドアを開けて通過させる構成も含まれます。

ここではクルマ単体の機能より、クルマから降りたロボットと目的地の建物をつなぐ仕組みが中心です。配送車、ロボット、家が一つの移動系として協力します。

Ford Global Technologies LLCFIG. 06
ASSIGNEE
Ford Global Technologies LLC
PRIORITY
2020-10-12
PUBLISHED
2022-04-14
PUBLICATION
US20220113731A1
INVENTORS
Kenneth Yesh / Justin Miller / Shankar Mohan
ORIGINAL
FIG. 07

ボタン一つで、車内を「ペット用の部屋」に組み替える

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20200130702A1
US20200130702A1 / FIG. 1。pet modeを起点に窓、サンルーフ、ドア、座席、空調など複数の車両機能をまとめて調整する。
FIG. 07US20200130702A1
Fordのペット向け車内環境システムの特許図面。車両、ペット、キーフォブ、車両コンピューターの関係が描かれている。

US20200130702A1 / FIG. 1。pet modeを起点に窓、サンルーフ、ドア、座席、空調など複数の車両機能をまとめて調整する。

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どんな発明?

専用のpet modeを選ぶと、車両コンピューターが窓やサンルーフを開け、リフトゲートを操作し、後席を倒し、空調を調整するといった複数の操作をまとめて実行します。センサーでペットの存在を確認する構成も示されています。

一つのボタンが単一機能を動かすのではなく、車内全体を特定の利用者向けに再構成します。クルマを人だけの空間として扱わない発想です。

Ford Global Technologies LLCFIG. 07
ASSIGNEE
Ford Global Technologies LLC
PRIORITY
2018-10-25
PUBLISHED
2020-04-30
PUBLICATION
US20200130702A1
INVENTORS
Francisco Ferreira / Luis Flores Alonso / Itzel Garrido / Luis Becerril
ORIGINAL
FIG. 08

フロントガラス用のHUDが今度は車外の壁へ映像を投げる

SOURCE FIGURESFIG. 7
PUBLICATIONUS20240399860A1
US20240399860A1 / FIG. 7。HUDプロジェクターの投影角を変え、車外の面へ見える情報を表示する。
FIG. 08US20240399860A1
Fordの車外投影HUDの特許図面。車両から外部の壁や別の車両へ光を投影する位置関係が描かれている。

US20240399860A1 / FIG. 7。HUDプロジェクターの投影角を変え、車外の面へ見える情報を表示する。

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どんな発明?

本来はフロントガラスへ情報を出すHUD用プロジェクターを使い、光を車外へ投影します。周囲の壁、天井、他の車両など投影先を検出し、距離や面の状態に応じて角度や明るさを調整する構成です。

自分の運転者だけに情報を見せていた装置が、車外の人や他車へ合図を送る装置へ変わります。複数車両が協調してパターンを投影する使い方まで想定されています。

Ford Global Technologies LLCFIG. 08
ASSIGNEE
Ford Global Technologies LLC
PRIORITY
2023-05-30
PUBLISHED
2024-12-05
PUBLICATION
US20240399860A1
INVENTORS
Brendan Francis Diamond / John Robert Van Wiemeersch / Ryan Joseph Gorski / Haibo Zhao / Janice Lisa Tardiff
ORIGINAL
FIG. 09

支払いが滞ると、クルマ自身が差し押さえ場所へ向かう

SOURCE FIGURESFIG. 2
PUBLICATIONUS20230055958A1
US20230055958A1 / FIG. 2。差し押さえを妨げる状況を検出する構成を含み、自律走行車なら指定場所へ自ら移動する実施形態も記載する。
FIG. 09US20230055958A1
Fordの車両差し押さえ支援システムの特許図面。車両、所有者、金融機関などの関係が描かれている。

US20230055958A1 / FIG. 2。差し押さえを妨げる状況を検出する構成を含み、自律走行車なら指定場所へ自ら移動する実施形態も記載する。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

特許では、支払い遅延への通知に反応がない場合、快適装備などの機能を段階的に制限したり、車両をロックアウトしたりする手順が示されています。所有者が車を閉じたガレージへ入れて差し押さえを妨げようとする場面まで図示されています。

さらに自律走行車であれば、車両コンピューターと連携して差し押さえ業者や金融機関などの指定場所へ自ら移動させる構成も記載されています。クルマが所有者の指示だけで動くという前提を反転させる例です。

Ford Global Technologies LLCFIG. 09
ASSIGNEE
Ford Global Technologies LLC
PRIORITY
2021-08-20
PUBLISHED
2023-02-23
PUBLICATION
US20230055958A1
INVENTORS
Anthony Maraldo / Brendan Diamond / Keith Weston / Michael Alan McNees
ORIGINAL
FIG. 10

運転しないなら、ステアリングの輪そのものを畳んでしまう

SOURCE FIGURESFIG. 3, FIG. 4
PUBLICATIONUS20220073123A1
US20220073123A1 / FIGS. 3–4。ステアリングリムの操舵位置と非操舵位置を対比する。
FIG. 10US20220073123A1
Fordの可倒式ステアリングホイールの特許図面。通常の操舵位置とリムを傾けた非操舵位置が描かれている。

US20220073123A1 / FIGS. 3–4。ステアリングリムの操舵位置と非操舵位置を対比する。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

ステアリングのリムをハブに対して傾け、通常の操舵位置から非操舵位置へ移動できるようにします。ロック機構で位置を固定し、必要に応じてモーターやケーブルで解除する構成です。

自動運転中や停車中にハンドルが不要なら、運転席前の大きな輪は単なる障害物になります。最後に変わるのは、クルマの象徴ともいえるステアリングそのものです。

Ford Global Technologies LLCFIG. 10
ASSIGNEE
Ford Global Technologies LLC
PRIORITY
2020-09-10
PUBLISHED
2022-03-10
PUBLICATION
US20220073123A1
INVENTORS
Martin Fassbender / Philipp Kuepper / Klemens Degle / Bruno Alves / Thomas Kreuz
ORIGINAL

AFTER THE FIGURES

運転席を中心に作られた箱が、用途ごとに姿を変える機械になる

最初の3件では、変わるのは車内です。座席が向かい合い、スクリーンが現れ、ダッシュボードから机が出る。自動運転中に人が前を見続けなくてよいなら、車内の家具は「運転のため」から「時間を使うため」へ再設計できます。

次に境界が車外へ広がります。テールゲートは作業台になり、車体からドローンが離陸し、建物側の情報と連携して配送ロボットを目的地まで案内する。ペットモードでは車内環境そのものを自動で組み替え、HUDは本来フロントガラスに見せる光を外部の壁や車両へ投影します。

最後の2件では、クルマと人の主従関係まで揺らぎます。支払い状況に応じて機能を制限し、自律走行車なら指定場所へ移動する差し押さえシステム。運転しない時間にはリムを畳んで空間を空けるステアリング。Fordの特許群はクルマを一つの完成した形ではなく、状況に応じて役割を変える機械として捉え直しています。

SOURCES

一次資料

  1. US20150142273A1 — Autonomous vehicle with reconfigurable seats
  2. US20150094896A1 — Autonomous vehicle entertainment system
  3. US20240025322A1 — Vehicle having deployable work desk
  4. US20180072242A1 — Vehicle tailgate with integrated sawhorse
  5. US20190313228A1 — Vehicle-integrated drone
  6. US20220113731A1 — Systems And Methods For Assisting A Delivery Robot
  7. US20200130702A1 — System and method for creating a pet-friendly automotive environment
  8. US20240399860A1 — Vehicle hud with external screen projection
  9. US20230055958A1 — Systems and Methods to Repossess a Vehicle
  10. US20220073123A1 — Tilting mechanism integrated in the steering wheel rim