乗り物や家電の未来を想像するとき、私たちはふつう「自分の外側にあるもの」がどう変わるかを考えます。けれど公開特許をたどると、面白いアイデアの一部はもっと内側、つまり人の身体そのものの周辺へ向かっています。腰や脚に装着して座る、背中から腕を増やす、手に第六の指を足す、眼の上に表示装置を載せる。未来の道具は持つものというより、着るもの・貼るもの・身体に沿って動くものになっていきます。

長時間立ち仕事を楽にする、前かがみ姿勢の負担を減らす、靴ひもを自動で締める、転倒時に膨らんで守る、といった「補う」発想もあれば、触っていないものに触れた感覚を返す、皮膚で化学情報を読む、といった「身体の感覚器を増やす」発想もあります。身体は固定された前提ではなく、後から拡張できるプラットフォームのように扱われています。

10件の多くは、公開特許に記された構想で、特定の製品との対応は未確認です。Nikeの自動シューレース技術には近い公式製品がありますが、この特許番号との一対一対応までは確認できていません。

FIG. 01

立ったまま少し座れる「椅子なしの椅子」を脚に着る

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20230234214A1
座面を持たず、脚の後ろ側だけで半座位を支える。外骨格が携帯椅子の役割を身体側へ引き寄せる。
FIG. 01US20230234214A1
太もも、ふくらはぎ、足首の後ろに沿って配置された chairless chair exoskeleton の斜視図。

座面を持たず、脚の後ろ側だけで半座位を支える。外骨格が携帯椅子の役割を身体側へ引き寄せる。

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どんな発明?

"Chairless chair exoskeleton" は、長時間の立ち作業を支えるための装着型の椅子です。FIG. 1では、太もも支持部、下腿支持部、足部接続部、関節、エネルギー蓄積要素が脚の後ろ側に並び、ふつうの椅子のような座面を使わずに半座位を作る発想が示されています。

人がその場を移動できることが前提なので、単なる折りたたみ椅子ではなく「身体の一部のように持ち歩ける支持機構」になっているのが面白いところです。休憩用の家具を職場に置くのではなく、家具の機能を脚へ貼り付ける方向に発想が反転しています。

Ozyegin UniversitesiFIG. 01
ASSIGNEE
Ozyegin Universitesi
PRIORITY
2020-12-30
PUBLISHED
2023-07-27
PUBLICATION
US20230234214A1
INVENTORS
Ramazan Unal / Ozgur Karaoglan
ORIGINAL
FIG. 02

背中から追加アームを生やして作業する

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20150217444A1
人間の二本腕の外側に、装着型のロボット腕を追加する。作業者は道具を持つだけでなく、腕そのものを増やす。
FIG. 02US20150217444A1
ユーザーの背中から二本の robotic arm が伸び、前方作業を補助する wearable robot assisting manual tasks の図。

人間の二本腕の外側に、装着型のロボット腕を追加する。作業者は道具を持つだけでなく、腕そのものを増やす。

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どんな発明?

MITの "Wearable Robot Assisting Manual Tasks" は、身体へ装着する追加アームの特許です。FIG. 1では、肩や背中に装着したフレームから複数のロボット腕が前方へ伸び、作業空間へ介入する構成が描かれています。

発想の核は、人間の手先を助ける道具ではなく、人間の上にもう一組の腕を積むことです。保持、支え、補助操作といった役割を余分な腕へ任せられれば、本来二人で行う作業を一人で処理できる場面も増えます。

Massachusetts Institute of TechnologyFIG. 02
ASSIGNEE
Massachusetts Institute of Technology
PRIORITY
2014-01-13
PUBLISHED
2015-08-06
PUBLICATION
US20150217444A1
INVENTORS
Haruhiko Harry Asada / Baldin Adolfo Llorens-Bonilla
ORIGINAL
FIG. 03

余分な脚や支えを身体に付けて前かがみ作業を助ける

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20170259427A1
人の脚とは別に、身体を支えるためのロボット脚を追加する。負荷は筋肉だけでなく外部の支えへ分散される。
FIG. 03US20170259427A1
腰部に装着した複数の supporting limb が床へ伸び、前傾姿勢のユーザーを支える robotic systems for supporting a user の図。

人の脚とは別に、身体を支えるためのロボット脚を追加する。負荷は筋肉だけでなく外部の支えへ分散される。

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どんな発明?

"Robotic systems for supporting a user" は、作業者の姿勢保持や荷重分散を助ける支持システムです。FIG. 1では、人の腰や背中まわりに装着されたフレームから補助的な脚・支持部材が伸び、前傾や中腰の作業を安定化する様子が読み取れます。

ここでのポイントは、ロボットが人の代わりに歩くのではなく、人が自分で動きながら「姿勢だけを外部化」していることです。人間の骨格を丸ごと置き換えるのではなく、疲れやすい場面だけ第三・第四の脚を差し込む設計になっています。

Massachusetts Institute of TechnologyFIG. 03
ASSIGNEE
Massachusetts Institute of Technology
PRIORITY
2016-03-10
PUBLISHED
2017-09-14
PUBLICATION
US20170259427A1
INVENTORS
Haruhiko Harry Asada / Daniel A. Kurek
ORIGINAL
FIG. 04

手に第六の指を足して握り方そのものを増やす

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20210052399A1
補助指が手の反対側から物体へ巻き付き、通常の五本指では作りにくい把持形状を補う。
FIG. 04US20210052399A1
手首側に装着した補助指が、手のひらの反対側から回り込む sixth-finger device の図。

補助指が手の反対側から物体へ巻き付き、通常の五本指では作りにくい把持形状を補う。

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どんな発明?

"A device for enhancing a subject's grasping capability" は、いわゆる sixth finger を実装するための特許です。FIG. 1では、手や前腕に装着された補助指が外側から回り込み、既存の五本指と協調して物体を把持する様子が描かれています。

この装置が面白いのは、義手のように失った機能を置き換えるだけではなく、健常な手に新しい把持経路を足している点です。手が本来持っている対向関係を増やし、丸いものや大きいものを握るときの自由度を上げようとしています。

Universita degli Studi di SienaFIG. 04
ASSIGNEE
Universita degli Studi di Siena
PRIORITY
2016-02-09
PUBLISHED
2021-02-25
PUBLICATION
US20210052399A1
INVENTORS
David Cioncoloni / Irfan Hussain / Domenico Prattichizzo / Simone Rossi / Gionata Salvietti / Giovanni Spagnoletti
ORIGINAL
FIG. 05

超音波で触れていない身体に感覚を起こす

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20180135001A1
コンテンツに合わせた超音波信号で脳の特定領域を刺激し、身体の別の場所に体性感覚を生じさせる。
FIG. 05US20180135001A1
タブレットを見る利用者が頭部のウェアラブル装置を装着し、足元に体性感覚が生じる様子を示すFIG.1の特許図面。

コンテンツに合わせた超音波信号で脳の特定領域を刺激し、身体の別の場所に体性感覚を生じさせる。

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どんな発明?

Samsung Electronicsの "Electronic device, wearable device, and method of providing content-based somatic senses using ultrasound" は、映像などのコンテンツに対応した体性感覚を超音波で生じさせようとする特許です。FIG. 1では、利用者が画面を見ながら頭部付近のウェアラブル装置を使い、足元に感覚が生じるイメージが描かれています。

特許は、コンテンツ中の体性感覚要素に対応するデータから超音波駆動信号を生成し、ユーザーの脳の特定領域を刺激する構成を説明しています。身体の感じさせたい場所へ装置を直接貼るのではなく、頭部側から「どこに何を感じるか」を作ろうとする点がかなり異質です。

Samsung Electronics Co LtdFIG. 05
ASSIGNEE
Samsung Electronics Co Ltd
PRIORITY
2016-11-14
PUBLISHED
2018-05-17
PUBLICATION
US20180135001A1
INVENTORS
Seung-ryong Jeon / Ki-Hyun Kim / Taek-Soo Kim / Eun-Jung Lee / Gyeong-cheol Jang
ORIGINAL
FIG. 06

靴ひもを自分の代わりに靴が締める

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20230371653A1
足を入れた状態や操作入力に応じて、靴がフィットを自動調整する。結ぶという手作業が機構へ置き換わる。
FIG. 06US20230371653A1
靴内部の automated footwear lacing system を示す分解図。

足を入れた状態や操作入力に応じて、靴がフィットを自動調整する。結ぶという手作業が機構へ置き換わる。

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どんな発明?

Nikeの "Automated footwear lacing systems, devices, and techniques" は、靴のフィット調整を自動化する特許です。FIG. 1では、靴の内部にラッピング部材や駆動系が組み込まれ、履いた人の足を包むように締め付けを変えられる構成が描かれています。

人が毎回ひもを結び直すのではなく、靴の側が状態を受けてフィットを調整する。衣服と機械の境目がかなり薄くなるタイプのウェアラブルだと言えます。

Nike IncFIG. 06
ASSIGNEE
Nike Inc
PRIORITY
2017-05-31
PUBLISHED
2023-11-23
PUBLICATION
US20230371653A1
INVENTORS
Steve Gaynes / David Mellinger
ORIGINAL
FIG. 07

触っていないものの触感を手袋側から返す

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20240168557A1
薄いアクチュエータを手袋状基材へ載せ、押す・引っかかる・触れるといった感覚を皮膚へ戻す。
FIG. 07US20240168557A1
指や手のひらに複数の haptic actuator を配置した wearable glove の図。

薄いアクチュエータを手袋状基材へ載せ、押す・引っかかる・触れるといった感覚を皮膚へ戻す。

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どんな発明?

"Haptic actuators and related wearable devices" は、薄型の触覚アクチュエータを身体に近いデバイスへ実装する特許です。FIG. 1では、手の甲や指に沿うウェアラブル基材の上へ複数のアクチュエータが配置され、局所的に刺激を返せる構成が示されています。

映像や音だけでは足りない仮想体験を埋めるために、入力装置ではなく「皮膚へ出力する装置」を作ろうとしている点が重要です。見る・聞くに続いて、触るという感覚まで遠隔的に編集可能になります。

Meta Platforms Technologies LLCFIG. 07
ASSIGNEE
Meta Platforms Technologies LLC
PRIORITY
2021-05-10
PUBLISHED
2024-05-23
PUBLICATION
US20240168557A1
INVENTORS
DongSuk Shin / Benjamin Gorissen / Daniele Piazza / David Rother Dobbs / Erik Samuel Roby
ORIGINAL
FIG. 08

コンタクトレンズ自体を表示装置にする

SOURCE FIGURESFIG. 3
PUBLICATIONUS20220269109A1
レンズ内に表示パネルや配線層を組み込み、眼の上へ直接ディスプレイを載せる構成が描かれる。
FIG. 08US20220269109A1
smart contact lens の表示パネルとレンズ構造を示す exploded view。

レンズ内に表示パネルや配線層を組み込み、眼の上へ直接ディスプレイを載せる構成が描かれる。

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どんな発明?

Samsung Displayの "Display panel and smart contact lens including the display panel" は、スマートコンタクトレンズの特許です。FIG. 3では、レンズ、表示パネル、環状構造体などが分解図で示され、レンズ内部に電子的な表示機能を持たせる設計が見て取れます。

スマートウォッチやスマートグラスよりさらに身体へ近いのがポイントです。情報を見るために手元や顔の前を見るのではなく、視界そのものに表示層を重ねる。表示装置が「身につけるもの」から「眼に載るもの」へ近づいています。

Samsung Display Co LtdFIG. 08
ASSIGNEE
Samsung Display Co Ltd
PRIORITY
2021-02-22
PUBLISHED
2022-08-25
PUBLICATION
US20220269109A1
INVENTORS
Junghun Lee / Jiheon Lee
ORIGINAL
FIG. 09

皮膚に貼るセンサーで身体の化学情報を読む

SOURCE FIGURESFIG. 5C
PUBLICATIONUS20180220967A1
皮膚に密着する薄いセンサーが、汗などの化学情報を読み取り、身体を計測インターフェースへ変える。
FIG. 09US20180220967A1
wearable electrochemical sensor の評価図で、皮膚貼付センサーと計測結果が並ぶ。

皮膚に密着する薄いセンサーが、汗などの化学情報を読み取り、身体を計測インターフェースへ変える。

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どんな発明?

"Wearable electrochemical sensors" は、皮膚へ貼り付けるような薄型センサーの特許です。ここで使っているFIG. 5Cでは、貼付型デバイスの評価画像と電気化学測定結果が並び、身体表面から化学情報を取得する方向性がよく分かります。

これは腕時計型ウェアラブルの延長というより、皮膚そのものを測定面へ変える発想です。体内を直接見ることなく、汗や体表近傍の情報から身体状態を推定する。身体は保護膜であると同時に、継続計測の窓にもなります。

University of California Berkeley; University of California San Diego UCSDFIG. 09
ASSIGNEE
University of California Berkeley; University of California San Diego UCSD
PRIORITY
2012-05-10
PUBLISHED
2018-08-09
PUBLICATION
US20180220967A1
INVENTORS
Joseph Wang / Joshua Ray Windmiller / Amay Jairaj Bandodkar
ORIGINAL
FIG. 10

転倒時だけ膨らむ着るエアバッグで身体を守る

SOURCE FIGURESFIG. 1A / FIG. 1B
PUBLICATIONUS20220295918A1
普段は衣服のように身につけ、転倒や衝撃の瞬間だけ膨らんで上半身を保護する。
FIG. 10US20220295918A1
肩や胸まわりを覆う wearable airbag device の装着図。

普段は衣服のように身につけ、転倒や衝撃の瞬間だけ膨らんで上半身を保護する。

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どんな発明?

"Wearable airbag device" は、車両内蔵ではなく人が身につけるタイプのエアバッグ特許です。図では肩や胸部周辺を覆う装着体が描かれ、異常時に展開して衝撃から身体を守る構想が示されています。

身体保護というとヘルメットやプロテクターのような受動的装備を思い浮かべますが、この特許は必要な瞬間だけ形を変えて防御機能を出す点が特徴です。普段は邪魔になりにくく、事故時だけ「一瞬だけ別の身体」を追加するような設計です。

Toyoda Gosei Co LtdFIG. 10
ASSIGNEE
Toyoda Gosei Co Ltd
PRIORITY
2021-03-17
PUBLISHED
2022-09-22
PUBLICATION
US20220295918A1
INVENTORS
Toshihito Yanagisawa / Wataru Miura / Yusuke Kawamura
ORIGINAL

AFTER THE FIGURES

身体の未来は「機械を持つ」より「機械が身体側へ寄ってくる」

10件では、椅子、指、超音波、皮膚、靴、レンズ、エアバッグといった、これまで別々のカテゴリーに見えていたものが、身体の周辺装置として一つの列に並びます。未来のプロダクトは外に置かれた機械ではなく、人の姿勢・感覚・移動・保護を直接つくり替える層として現れています。

面白いのは、「強化」の意味がかなり広いことです。重いものを持つための追加アームもあれば、立ち仕事で少し休める脚部装置もある。仮想空間の触感を返すデバイスもあれば、汗や体液に近い情報を読む化学センサーもある。必要な機能だけを局所的に付け足す設計が目立ちます。

特許に残る身体の未来では、人間と道具の境目は少しずつ曖昧になります。靴は自動で締まり、皮膚は測定器になり、レンズは表示装置になり、背中からは腕や支えが生える。未来の身体は自然のままの一枚岩というより、用途ごとに部品が差し込まれていく更新可能なインターフェースのように見えます。

SOURCES

一次資料

  1. US20230234214A1 — Chairless chair exoskeleton
  2. US20150217444A1 — Wearable Robot Assisting Manual Tasks
  3. US20170259427A1 — Robotic systems for supporting a user
  4. US20210052399A1 — A device for enhancing a subject's grasping capability
  5. US20180135001A1 — Electronic device, wearable device, and method of providing content-based somatic senses using ultrasound
  6. US20230371653A1 — Automated footwear lacing systems, devices, and techniques
  7. US20240168557A1 — Haptic actuators and related wearable devices
  8. US20220269109A1 — Display panel and smart contact lens including the display panel
  9. US20180220967A1 — Wearable electrochemical sensors
  10. US20220295918A1 — Wearable airbag device