服は長いあいだ、人の身体を包む受け身の道具でした。ところが特許図面を横断して見ると、布や靴は少しずつ「何かをする機械」へ変わっています。靴ひもはモーターで締まり、袖はタッチセンサーになり、ジャケットは事故の瞬間に膨らみます。
さらに服は温度を変え、心臓の電気信号を読み、ゲームの衝撃を身体へ返し、自分の厚みまで空気で調整します。サイズや硬さも固定ではなくなり、服そのものが身体や状況に合わせて振る舞うようになります。
10件はUS公開特許に記された提案です。Nike Adapt、Levi's Commuter Trucker Jacket with Jacquard、bHaptics TactSuit、Stoko Supportive Tightには近い技術が見られますが、各特許との一対一対応までは確認できていません。
靴ひもを自分の手ではなくモーターに締めてもらう
どんな発明?
Nikeの「Autolacing footwear system with preset user profiles」は、靴内部のモーターと張力調整機構でフィットを変えるシステムです。FIG. 1では、靴底側に組み込まれるlacing engine、actuator、mid-sole plateなどが分解表示されています。
普通の靴ひもは、履くたびに人が引っ張って結びます。この仕組みでは締め具合を数値化し、好みの設定として保存して再現できます。
- ASSIGNEE
- Nike Inc
- PRIORITY
- 2017-10-25
- PUBLISHED
- 2024-01-18
- PUBLICATION
- US20240016254A1
- INVENTORS
- Christopher Andon / Yujin Lee / Kiran Kripakaran / Bryan Martz
ジャケットの袖をそのままタッチパネルにする
どんな発明?
Googleの「Interactive textiles」は、導電糸を布に織り込み、静電容量式のタッチセンサーとして使う発明です。FIG. 1では、同じinteractive textileが衣服やバッグなどへ組み込まれるイメージが描かれています。
スマートウォッチのように小さな画面を服へ貼るのではなく、布そのものをセンサーにします。触る、なぞるといった操作をそのまま衣服の表面で受け取れます。
- ASSIGNEE
- Google LLC
- PRIORITY
- 2014-08-15
- PUBLISHED
- 2017-04-27
- PUBLICATION
- US20170115777A1
- INVENTORS
- Ivan Poupyrev
事故の瞬間だけジャケット全体がエアバッグになる
どんな発明?
Toyotaの「Wearable airbag」は、衣服そのものへ複数のairbag chamber、センサー、controller、igniterを組み込む発明です。FIG. 4では、ジャケットの胸や腹部を覆うように膨張部が配置されています。
車のエアバッグは座席やハンドルの位置に固定されています。この案では保護装置を人が身につけることで、座る向きや姿勢が変わっても身体側へ保護を連れていきます。
- ASSIGNEE
- Toyota Motor Corp
- PRIORITY
- 2016-05-13
- PUBLISHED
- 2017-11-16
- PUBLICATION
- US20170325521A1
- INVENTORS
- Yi Li
服の中で液体を循環させて身体を冷やしたり温めたりする
どんな発明?
「Electronic heating/cooling garment」は、Peltier device、pump、heating medium circulation pathを衣服へ組み込む発明です。FIG. 1では首元の冷暖房部と、衣服全体へ広がる循環経路が示されています。
この案では服自身が熱を移動させる装置になり、暑い場所では冷やし、寒い場所では温める方向へ能動的に働きます。
- ASSIGNEE
- Win Human Recorder Co Ltd
- PRIORITY
- 2018-03-05
- PUBLISHED
- 2021-02-11
- PUBLICATION
- US20210037900A1
- INVENTORS
- Kiyoshi Itao
シャツそのものを心電図センサーにする
どんな発明?
FitSenseの特許は、シャツやスポーツブラなどに電極を付け、導電糸で着脱式のEKG sensorへ接続する構成です。掲載したFIG. 1Aと1Bは衣服側の電極と接続部、原典のFIG. 1Cと1Dは着脱式センサーを取り付けた状態を示しています。
心拍を測るために胸へ別のベルトを巻くのではなく、普段着る衣服そのものへ測定点を埋め込みます。
- ASSIGNEE
- FitSense Technology Inc
- PRIORITY
- 2003-05-13
- PUBLISHED
- 2005-01-13
- PUBLICATION
- US20050010096A1
- INVENTORS
- Thomas Blackadar
ゲームの爆発や衝撃をベストから身体へ返す
どんな発明?
「Three-dimensional virtual reality vest」は、VR体験向けのvest garmentに複数のhaptic feedback deviceとspeaker systemを組み込む発明です。FIG. 1では利用者がベストを着用した状態が描かれています。
ヘッドセットから届く映像と音に加え、この案では衝撃や方向感をベスト側から返し、仮想世界の出来事を胴体へ伝えます。
- ASSIGNEE
- Individual
- PRIORITY
- 2022-02-17
- PUBLISHED
- 2023-08-17
- PUBLICATION
- US20230259195A1
- INVENTORS
- James Gomez
空気を入れてジャケットの厚みそのものを変える
どんな発明?
NuDownの「Inflatable Garment」は、ジャケットやベストへ空気室と軽量ポンプを組み込む発明です。FIG. 1では左右のinflatable sectionと、手で操作するpumpを備えたジャケットが描かれています。
普通のダウンジャケットは買った時点で厚みが決まっています。この案では空気量を変えることで、服の厚みや保温性を着用中に調整できます。
- ASSIGNEE
- NuDown Inc
- PRIORITY
- 2016-04-13
- PUBLISHED
- 2017-10-19
- PUBLICATION
- US20170295860A1
- INVENTORS
- Robert Hall / Cory Tholl / Matt Maxfield
Tシャツの胸を交換できるOLED画面にする
どんな発明?
「Wearable display system having removable OLED display」は、シャツなどへ柔軟なOLED screenを取り付け、画像を切り替えられるウェアラブル表示システムです。FIG. 1では胸部の大きな表示面と固定機構が描かれています。
プリントTシャツなら柄を変えるには服ごと着替える必要があります。この案では衣服の表面を電子表示にすることで一着の見た目を何度でも変更できます。
- ASSIGNEE
- Individual
- PRIORITY
- 2012-11-27
- PUBLISHED
- 2015-08-25
- PUBLICATION
- US9116667B1
- INVENTORS
- Widny St. Louis
服の中のケーブルを引いて身体への締め付けを均一にする
どんな発明?
Stokoの特許は、衣服の中を走る複数のtension memberと、張力を均等に分けるtension evenerを使ってフィットを調整します。FIG. 1では、コート状の衣服に複数のコードが巡らされた構成が描かれています。
一か所だけを強く締めると布がよれたり圧力が偏ったりします。そこで複数のケーブルへ力を分配し、身体の複数位置をまとめて支えます。
- ASSIGNEE
- Stoko Design Inc
- PRIORITY
- 2017-12-15
- PUBLISHED
- 2022-01-27
- PUBLICATION
- US20220022567A1
- INVENTORS
- Nick Rutckyj / Andrew Campbell / Kevin Reilly
靴底の硬さを柱に巻いたバンドの位置で変える
どんな発明?
Nikeの「Footwear sole with a stiffness adjustment mechanism」は、ソール内部の弾性support elementへbandを巻き、その位置を変えることで変形しやすさを調整する発明です。FIG. 3では、その機構を備えた靴全体が描かれています。
普通の靴底は柔らかさや硬さが製造時に決まります。この案では同じ支持柱でも、バンドを置く位置によって曲がり方を変え、履き味を調整できます。
- ASSIGNEE
- Nike Inc
- PRIORITY
- 2001-11-15
- PUBLISHED
- 2004-10-07
- PUBLICATION
- US20040194347A1
- INVENTORS
- Michael A. Aveni / David Grelewicz
AFTER THE FIGURES
服の未来は身体に一番近いコンピューターになることかもしれない
10件を通じて、締める、押す、冷やす、温める、測る、膨らむ、光るといった機械の仕事が、布や靴の内側へ少しずつ移っています。
服は身体に密着しているからこそ、入力装置にも出力装置にもなれます。袖を触れば命令を送り、電極なら心拍を読み、ハプティックモーターなら仮想世界の衝撃を返せます。身体とコンピューターの境界として、かなり都合のよい場所です。
未来の服は、サイズや色を選んで終わる商品ではなくなるのかもしれません。その日の身体や行動に合わせて、形・硬さ・温度・感覚まで変わる。着るものが「身体の設定画面」になるような未来です。
SOURCES
一次資料
- US20240016254A1 — Autolacing footwear system with preset user profiles
- US20170115777A1 — Interactive textiles
- US20170325521A1 — Wearable airbag
- US20210037900A1 — Electronic heating/cooling garment and electronic heating/cooling device attachable to/detachable from garment
- US20050010096A1 — EKG enabled apparel with detachable electronics
- US20230259195A1 — Three-dimensional virtual reality vest
- US20170295860A1 — Inflatable Garment with Lightweight Air Pump and Method of Use
- US9116667B1 — Wearable display system having removable OLED display
- US20220022567A1 — Apparatus and method for adjusting fit of apparel
- US20040194347A1 — Footwear sole with a stiffness adjustment mechanism
