服は長いあいだ、人の身体を包む受け身の道具でした。ところが特許図面を横断して見ると、布や靴は少しずつ「何かをする機械」へ変わっています。靴ひもはモーターで締まり、袖はタッチセンサーになり、ジャケットは事故の瞬間に膨らみます。

さらに服は温度を変え、心臓の電気信号を読み、ゲームの衝撃を身体へ返し、自分の厚みまで空気で調整します。サイズや硬さも固定ではなくなり、服そのものが身体や状況に合わせて振る舞うようになります。

10件はUS公開特許に記された提案です。Nike Adapt、Levi's Commuter Trucker Jacket with Jacquard、bHaptics TactSuit、Stoko Supportive Tightには近い技術が見られますが、各特許との一対一対応までは確認できていません。

FIG. 01

靴ひもを自分の手ではなくモーターに締めてもらう

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20240016254A1
靴底内部のモーターがひもの張力を変え、利用者ごとの締め具合を保存・再現する。
FIG. 01US20240016254A1
モーター、アクチュエーター、ミッドソールなどから構成される自動靴ひもシステムの分解特許図面。

靴底内部のモーターがひもの張力を変え、利用者ごとの締め具合を保存・再現する。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Nikeの「Autolacing footwear system with preset user profiles」は、靴内部のモーターと張力調整機構でフィットを変えるシステムです。FIG. 1では、靴底側に組み込まれるlacing engine、actuator、mid-sole plateなどが分解表示されています。

普通の靴ひもは、履くたびに人が引っ張って結びます。この仕組みでは締め具合を数値化し、好みの設定として保存して再現できます。

Nike IncFIG. 01
ASSIGNEE
Nike Inc
PRIORITY
2017-10-25
PUBLISHED
2024-01-18
PUBLICATION
US20240016254A1
INVENTORS
Christopher Andon / Yujin Lee / Kiran Kripakaran / Bryan Martz
ORIGINAL
FIG. 02

ジャケットの袖をそのままタッチパネルにする

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20170115777A1
布の中へ導電糸の格子を織り込み、指で触れた位置やジェスチャーを入力として読む。
FIG. 02US20170115777A1
導電糸を織り込んだinteractive textileをシャツやバッグなどへ組み込む構成を示す特許図面。

布の中へ導電糸の格子を織り込み、指で触れた位置やジェスチャーを入力として読む。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Googleの「Interactive textiles」は、導電糸を布に織り込み、静電容量式のタッチセンサーとして使う発明です。FIG. 1では、同じinteractive textileが衣服やバッグなどへ組み込まれるイメージが描かれています。

スマートウォッチのように小さな画面を服へ貼るのではなく、布そのものをセンサーにします。触る、なぞるといった操作をそのまま衣服の表面で受け取れます。

Google LLCFIG. 02
ASSIGNEE
Google LLC
PRIORITY
2014-08-15
PUBLISHED
2017-04-27
PUBLICATION
US20170115777A1
INVENTORS
Ivan Poupyrev
ORIGINAL
FIG. 03

事故の瞬間だけジャケット全体がエアバッグになる

SOURCE FIGURESFIG. 4
PUBLICATIONUS20170325521A1
センサーが危険な加速度や状態を検出すると、服の内部にあるエアバッグ室を展開する。
FIG. 03US20170325521A1
胸や胴体に複数の膨張室を配置したwearable airbag jacketの正面特許図面。

センサーが危険な加速度や状態を検出すると、服の内部にあるエアバッグ室を展開する。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Toyotaの「Wearable airbag」は、衣服そのものへ複数のairbag chamber、センサー、controller、igniterを組み込む発明です。FIG. 4では、ジャケットの胸や腹部を覆うように膨張部が配置されています。

車のエアバッグは座席やハンドルの位置に固定されています。この案では保護装置を人が身につけることで、座る向きや姿勢が変わっても身体側へ保護を連れていきます。

Toyota Motor CorpFIG. 03
ASSIGNEE
Toyota Motor Corp
PRIORITY
2016-05-13
PUBLISHED
2017-11-16
PUBLICATION
US20170325521A1
INVENTORS
Yi Li
ORIGINAL
FIG. 04

服の中で液体を循環させて身体を冷やしたり温めたりする

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20210037900A1
首元で熱を移動させ、服の中を流れる媒体へその熱を運ばせて身体全体の温度を調整する。
FIG. 04US20210037900A1
首元のPeltier素子、ポンプ、衣服内の循環経路を組み合わせた電子冷暖房ウェアの特許図面。

首元で熱を移動させ、服の中を流れる媒体へその熱を運ばせて身体全体の温度を調整する。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

「Electronic heating/cooling garment」は、Peltier device、pump、heating medium circulation pathを衣服へ組み込む発明です。FIG. 1では首元の冷暖房部と、衣服全体へ広がる循環経路が示されています。

この案では服自身が熱を移動させる装置になり、暑い場所では冷やし、寒い場所では温める方向へ能動的に働きます。

Win Human Recorder Co LtdFIG. 04
ASSIGNEE
Win Human Recorder Co Ltd
PRIORITY
2018-03-05
PUBLISHED
2021-02-11
PUBLICATION
US20210037900A1
INVENTORS
Kiyoshi Itao
ORIGINAL
FIG. 05

シャツそのものを心電図センサーにする

SOURCE FIGURESFIGS. 1A–1B
PUBLICATIONUS20050010096A1
肌に触れる電極と導電糸を衣服へ縫い込み、心臓の電気信号を着たまま取得する。
FIG. 05US20050010096A1
衣服側の電極と接続部を写した、FIG. 1Aと1Bの特許掲載写真。

肌に触れる電極と導電糸を衣服へ縫い込み、心臓の電気信号を着たまま取得する。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

FitSenseの特許は、シャツやスポーツブラなどに電極を付け、導電糸で着脱式のEKG sensorへ接続する構成です。掲載したFIG. 1Aと1Bは衣服側の電極と接続部、原典のFIG. 1Cと1Dは着脱式センサーを取り付けた状態を示しています。

心拍を測るために胸へ別のベルトを巻くのではなく、普段着る衣服そのものへ測定点を埋め込みます。

FitSense Technology IncFIG. 05
ASSIGNEE
FitSense Technology Inc
PRIORITY
2003-05-13
PUBLISHED
2005-01-13
PUBLICATION
US20050010096A1
INVENTORS
Thomas Blackadar
ORIGINAL
FIG. 06

ゲームの爆発や衝撃をベストから身体へ返す

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20230259195A1
映像だけでなく、ベスト内の複数の振動装置やスピーカーで身体へ触覚と音を返す。
FIG. 06US20230259195A1
VRヘッドセット利用者がスピーカーと複数のハプティック装置を内蔵したベストを着用する特許図面。

映像だけでなく、ベスト内の複数の振動装置やスピーカーで身体へ触覚と音を返す。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

「Three-dimensional virtual reality vest」は、VR体験向けのvest garmentに複数のhaptic feedback deviceとspeaker systemを組み込む発明です。FIG. 1では利用者がベストを着用した状態が描かれています。

ヘッドセットから届く映像と音に加え、この案では衝撃や方向感をベスト側から返し、仮想世界の出来事を胴体へ伝えます。

IndividualFIG. 06
ASSIGNEE
Individual
PRIORITY
2022-02-17
PUBLISHED
2023-08-17
PUBLICATION
US20230259195A1
INVENTORS
James Gomez
ORIGINAL
FIG. 07

空気を入れてジャケットの厚みそのものを変える

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20170295860A1
ジャケット内部の空気室をポンプで膨らませ、断熱性やフィット感をその場で変える。
FIG. 07US20170295860A1
手動ポンプを備え、左右の胴体部へ空気を入れられるinflatable jacketの特許図面。

ジャケット内部の空気室をポンプで膨らませ、断熱性やフィット感をその場で変える。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

NuDownの「Inflatable Garment」は、ジャケットやベストへ空気室と軽量ポンプを組み込む発明です。FIG. 1では左右のinflatable sectionと、手で操作するpumpを備えたジャケットが描かれています。

普通のダウンジャケットは買った時点で厚みが決まっています。この案では空気量を変えることで、服の厚みや保温性を着用中に調整できます。

NuDown IncFIG. 07
ASSIGNEE
NuDown Inc
PRIORITY
2016-04-13
PUBLISHED
2017-10-19
PUBLICATION
US20170295860A1
INVENTORS
Robert Hall / Cory Tholl / Matt Maxfield
ORIGINAL
FIG. 08

Tシャツの胸を交換できるOLED画面にする

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS9116667B1
布へディスプレイを直接織り込まず、柔軟なOLEDモジュールを衣服へ着脱できるようにする。
FIG. 08US9116667B1
胸部へ取り外し可能な柔軟OLEDディスプレイを固定したシャツの特許図面。

布へディスプレイを直接織り込まず、柔軟なOLEDモジュールを衣服へ着脱できるようにする。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

「Wearable display system having removable OLED display」は、シャツなどへ柔軟なOLED screenを取り付け、画像を切り替えられるウェアラブル表示システムです。FIG. 1では胸部の大きな表示面と固定機構が描かれています。

プリントTシャツなら柄を変えるには服ごと着替える必要があります。この案では衣服の表面を電子表示にすることで一着の見た目を何度でも変更できます。

IndividualFIG. 08
ASSIGNEE
Individual
PRIORITY
2012-11-27
PUBLISHED
2015-08-25
PUBLICATION
US9116667B1
INVENTORS
Widny St. Louis
ORIGINAL
FIG. 09

服の中のケーブルを引いて身体への締め付けを均一にする

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20220022567A1
一つの調整部を回すと、服の中を走る複数のケーブルへ張力が分配され、身体への支え方を変える。
FIG. 09US20220022567A1
服の複数箇所をケーブルでつなぎ、tension evenerと調整機構でフィットを変える特許図面。

一つの調整部を回すと、服の中を走る複数のケーブルへ張力が分配され、身体への支え方を変える。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Stokoの特許は、衣服の中を走る複数のtension memberと、張力を均等に分けるtension evenerを使ってフィットを調整します。FIG. 1では、コート状の衣服に複数のコードが巡らされた構成が描かれています。

一か所だけを強く締めると布がよれたり圧力が偏ったりします。そこで複数のケーブルへ力を分配し、身体の複数位置をまとめて支えます。

Stoko Design IncFIG. 09
ASSIGNEE
Stoko Design Inc
PRIORITY
2017-12-15
PUBLISHED
2022-01-27
PUBLICATION
US20220022567A1
INVENTORS
Nick Rutckyj / Andrew Campbell / Kevin Reilly
ORIGINAL
FIG. 10

靴底の硬さを柱に巻いたバンドの位置で変える

SOURCE FIGURESFIG. 3
PUBLICATIONUS20040194347A1
ソールの支持柱を締める位置を変え、同じ靴のクッション性や安定性を調整する。
FIG. 10US20040194347A1
ソール内部に複数の弾性支持柱と、それぞれの変形量を変えるバンドを配置したNikeの特許図面。

ソールの支持柱を締める位置を変え、同じ靴のクッション性や安定性を調整する。

拡大時はドラッグで移動。+/−で拡大縮小、0で全体表示、矢印キーで移動、Alt+矢印キーで前後のFIG.へ。

どんな発明?

Nikeの「Footwear sole with a stiffness adjustment mechanism」は、ソール内部の弾性support elementへbandを巻き、その位置を変えることで変形しやすさを調整する発明です。FIG. 3では、その機構を備えた靴全体が描かれています。

普通の靴底は柔らかさや硬さが製造時に決まります。この案では同じ支持柱でも、バンドを置く位置によって曲がり方を変え、履き味を調整できます。

Nike IncFIG. 10
ASSIGNEE
Nike Inc
PRIORITY
2001-11-15
PUBLISHED
2004-10-07
PUBLICATION
US20040194347A1
INVENTORS
Michael A. Aveni / David Grelewicz
ORIGINAL

AFTER THE FIGURES

服の未来は身体に一番近いコンピューターになることかもしれない

10件を通じて、締める、押す、冷やす、温める、測る、膨らむ、光るといった機械の仕事が、布や靴の内側へ少しずつ移っています。

服は身体に密着しているからこそ、入力装置にも出力装置にもなれます。袖を触れば命令を送り、電極なら心拍を読み、ハプティックモーターなら仮想世界の衝撃を返せます。身体とコンピューターの境界として、かなり都合のよい場所です。

未来の服は、サイズや色を選んで終わる商品ではなくなるのかもしれません。その日の身体や行動に合わせて、形・硬さ・温度・感覚まで変わる。着るものが「身体の設定画面」になるような未来です。

SOURCES

一次資料

  1. US20240016254A1 — Autolacing footwear system with preset user profiles
  2. US20170115777A1 — Interactive textiles
  3. US20170325521A1 — Wearable airbag
  4. US20210037900A1 — Electronic heating/cooling garment and electronic heating/cooling device attachable to/detachable from garment
  5. US20050010096A1 — EKG enabled apparel with detachable electronics
  6. US20230259195A1 — Three-dimensional virtual reality vest
  7. US20170295860A1 — Inflatable Garment with Lightweight Air Pump and Method of Use
  8. US9116667B1 — Wearable display system having removable OLED display
  9. US20220022567A1 — Apparatus and method for adjusting fit of apparel
  10. US20040194347A1 — Footwear sole with a stiffness adjustment mechanism