飛行機の客室は面積を簡単には増やせません。だからAirbusの特許図面を追うと、新しい設備を足すというより、すでにある座席、壁、ドア、階段、トイレを別の形へ変え、同じ体積に複数の役割を押し込む発明が何度も現れます。

座面をサドルに近づけて奥行きを減らし、ヘッドレストを頭を覆う装置へ変え、トイレのドアへ乗務員席を取り付ける。さらに縦方向の空間には睡眠ボックスを積み、非常口付近の空間は飛行中だけ階段として使います。発明の中心にあるのは「何を追加するか」より「同じ場所をいつ、何として使うか」です。

これら8件のUS特許には、Airbusが別途公表している下部デッキ睡眠設備やSpace-Flexと近い方向の発明もあります。ただし、該当する特許がそれらへ一対一で実装されたことまでは確認していません。

FIG. 01

座席をサドルに近づける

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20140159444A1
FIG. 1。座面をオートバイのサドルに近い形にし、背もたれを前方へ移動させて座席の奥行きを小さくする。
FIG. 01US20140159444A1
通常の座面より細いサドル状の座部と前方へ折り畳める背もたれを備えたAirbusの航空機座席特許図面。

FIG. 1。座面をオートバイのサドルに近い形にし、背もたれを前方へ移動させて座席の奥行きを小さくする。

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どんな発明?

「Seating device comprising a forward-foldable backrest」は、航空機の座席を使用状態から省スペース状態へ変える仕組みです。特許では座面をmotorcycle-type saddleとし、前側を細く高くすることで、乗客を立たせずに座面位置を高くできる構成が示されています。

背もたれも単純に倒すのではなく前方かつ上方へ円弧状に移動します。目的は座席を使っていないときの張り出しを減らし、列の奥へ出入りしやすくすることです。

Airbus Operations SASFIG. 01
ASSIGNEE
Airbus Operations SAS
PRIORITY
2012-12-12
PUBLISHED
2014-06-12
PUBLICATION
US20140159444A1
INVENTORS
Bernard Guering
ORIGINAL
FIG. 02

ヘッドレストを頭を包むヘルメットにする

SOURCE FIGURESFIG. 14
PUBLICATIONUS20120292960A1
FIG. 14。座席の後頭部から展開したシェルが乗客の頭を部分的に覆い、映像・音声・空調などを頭の周囲へまとめる。
FIG. 02US20120292960A1
乗客の頭の周囲へ展開するヘルメット状ヘッドレストと映像用メガネを示すAirbusの特許図面。

FIG. 14。座席の後頭部から展開したシェルが乗客の頭を部分的に覆い、映像・音声・空調などを頭の周囲へまとめる。

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どんな発明?

「Headrest for a passenger seat for an aircraft」は、通常のヘッドレストに、乗客の頭を少なくとも部分的に収めるhelmetを組み合わせます。シェルは前後・上下へ動かせ、不要なときは後方へ退避できます。

特許には映像用メガネ、イヤホン、通風、透明度を変えられる部分なども記載されています。座席前の画面を見るのではなく頭の周りそのものを個人用の視聴・遮蔽空間へ変える発想です。

Airbus Operations SASFIG. 02
ASSIGNEE
Airbus Operations SAS
PRIORITY
2010-01-29
PUBLISHED
2012-11-22
PUBLICATION
US20120292960A1
INVENTORS
Bernard Guering
ORIGINAL
FIG. 03

トイレのドアを乗務員席にする

SOURCE FIGURESFIG. 3
PUBLICATIONUS20160355266A1
FIG. 3。閉じたドアを正面から見た図で、折り畳んだ座面・背もたれ・ヘッドレストがドア面にまとまる。
FIG. 03US20160355266A1
航空機キャビンのモジュール扉に折り畳み式の乗務員席を取り付けたAirbusの特許図面。

FIG. 3。閉じたドアを正面から見た図で、折り畳んだ座面・背もたれ・ヘッドレストがドア面にまとまる。

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どんな発明?

「Module for an aircraft cabin with a seat fastened to a door」は、客室内のモジュールに設けたドアへ座席を直接取り付ける構成です。座席とドアを別々の壁面へ配置せず、一つの可動面へまとめます。

航空機では乗務員席も、通路も、トイレなどのモジュールも安全要件を満たしながら限られた床面積へ収める必要があります。この発明は「扉の前は扉のためだけの場所」という前提を崩します。

Airbus Operations GmbHFIG. 03
ASSIGNEE
Airbus Operations GmbH
PRIORITY
2014-02-24
PUBLISHED
2016-12-08
PUBLICATION
US20160355266A1
INVENTORS
Christian Seibt
ORIGINAL
FIG. 04

客室に三段の睡眠ボックスを積む

SOURCE FIGURESFIGS. 1A–1B
PUBLICATIONUS20150266581A1
FIGS. 1A–1B。人が横になれる細長いボックスを上下方向へ積み、床面積だけでなく客室の高さも使う。
FIG. 04US20150266581A1
複数の横長睡眠ボックスを上下に積み重ねたAirbusの航空機用睡眠設備の特許図面。

FIGS. 1A–1B。人が横になれる細長いボックスを上下方向へ積み、床面積だけでなく客室の高さも使う。

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どんな発明?

「Sleeping box, sleeping box arrangement and aircraft area」は、一人が横になれる細長いsleeping boxを組み合わせ、複数段へ配置する航空機内の休息設備です。座席をリクライニングさせるのではなく最初から横になるための独立した小空間を作ります。

複数のボックスを上下に積むことで、通常なら座席と頭上空間に分かれている高さ方向まで宿泊設備として使えます。客室を平面的な座席表ではなく立体的な収納構造のように扱う発想です。

Airbus Operations GmbHFIG. 04
ASSIGNEE
Airbus Operations GmbH
PRIORITY
2014-03-19
PUBLISHED
2015-09-24
PUBLICATION
US20150266581A1
INVENTORS
Frank Roese / Carsten Putensen
ORIGINAL
FIG. 05

非常口の前を飛行中だけ階段にする

SOURCE FIGURESFIGS. 1–2
PUBLICATIONUS20120193472A1
FIGS. 1–2。下側の段だけを展開・収納し、巡航中は上下階を結ぶ階段、必要時には通路を空ける構成にする。
FIG. 05US20120193472A1
航空機内の上下階を結ぶ階段で、下側の段を持ち上げて収納できる構造を示したAirbusの特許図面。

FIGS. 1–2。下側の段だけを展開・収納し、巡航中は上下階を結ぶ階段、必要時には通路を空ける構成にする。

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どんな発明?

「Stairway for an aircraft」は、機内の下側レベルと上側レベルを結ぶ階段のうち、下端に近い複数段をまとめて持ち上げられる構造です。特許ではday spaceとnight spaceを結ぶ用途も例示されています。

下側の段を立てて収納できれば、階段が常時占有していた床を別の用途へ戻せます。飛行中だけ必要な動線を展開し、離着陸など別の条件では片付けるという時間分割の空間設計です。

Airbus Operations SASFIG. 05
ASSIGNEE
Airbus Operations SAS
PRIORITY
2007-05-31
PUBLISHED
2012-08-02
PUBLICATION
US20120193472A1
INVENTORS
Bernard Guering / Jonathan Guering
ORIGINAL
FIG. 06

座席の背もたれを壁の一部にする

SOURCE FIGURESFIG. 1
PUBLICATIONUS20180281972A1
FIG. 1。背もたれを壁側の上部ユニット、座面と脚を床側の下部ユニットへ分け、座席と客室モニュメントを一体化する。
FIG. 06US20180281972A1
客室モニュメントの壁に背もたれを固定し、座面側を別体にしたAirbusの旅客座席システムの特許図面。

FIG. 1。背もたれを壁側の上部ユニット、座面と脚を床側の下部ユニットへ分け、座席と客室モニュメントを一体化する。

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どんな発明?

「Functional unit in a passenger cabin」は、旅客座席を上下二つの構造へ分けます。背もたれを含む上部ユニットはcabin monument wallなどの支持構造へ固定し、座面・フレーム・拘束装置を含む下部ユニットはシートレール側へ取り付けます。

通常なら「壁」と「座席」は別の設備ですが、この構成では壁が背もたれを受け持ちます。さらに座面を折り畳める構成も示され、モニュメントの前を必要に応じて空けられます。

Airbus Operations GmbHFIG. 06
ASSIGNEE
Airbus Operations GmbH
PRIORITY
2017-03-30
PUBLISHED
2018-10-04
PUBLICATION
US20180281972A1
INVENTORS
Sönke Jacobsen / Marcus Stahlfast / Juliane Gerken / Sven Mittelstaedt / Julian Harpenau / Fabian Nowacki
ORIGINAL
FIG. 07

トイレを細いモジュールへ圧縮する

SOURCE FIGURESFIGS. 1–2A
PUBLICATIONUS20170043875A1
FIG. 1。基本のlavatoryを細いモジュールとして構成し、必要な機能を周辺モジュールへ分けて客室レイアウトへ合わせる。
FIG. 07US20170043875A1
航空機客室向けの細幅トイレ本体と追加サービスモジュールを組み合わせるAirbusの特許図面。

FIG. 1。基本のlavatoryを細いモジュールとして構成し、必要な機能を周辺モジュールへ分けて客室レイアウトへ合わせる。

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どんな発明?

「Modular lavatory assembly」は、航空機などの客室へ置くlavatoryを基本モジュールと追加機能へ分け、限られた横幅へ配置しやすくする発明です。固定された一つの大きな箱ではなく必要な設備を組み合わせる考え方を取ります。

客室後方ではトイレ、ギャレー、通路、座席数が同じ長さを取り合います。トイレをモジュール化すると、その航空会社が必要とする設備に応じて空間配分を変えやすくなります。

Airbus Operations GmbHFIG. 07
ASSIGNEE
Airbus Operations GmbH
PRIORITY
2014-04-28
PUBLISHED
2017-02-16
PUBLICATION
US20170043875A1
INVENTORS
Martijn Vervaet / Torben Hennig / Michael Lau / Julia Rotenberger
ORIGINAL
FIG. 08

操縦室の折り畳み席に仕切りまで兼ねさせる

SOURCE FIGURESFIGS. 1–2
PUBLICATIONUS20130126671A1
FIGS. 1–2。折り畳み席を通路へ展開・収納し、座席と操縦室入口の仕切り機能を同じ可動物へ重ねる。
FIG. 08US20130126671A1
操縦室入口付近に設けられたAirbusの折り畳み補助席を複数位置で示す特許図面。

FIGS. 1–2。折り畳み席を通路へ展開・収納し、座席と操縦室入口の仕切り機能を同じ可動物へ重ねる。

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どんな発明?

「Aircraft flight deck comprising a folding seat」は、操縦室付近の狭い通路に折り畳み席を設け、使用状態と収納状態を切り替える発明です。特許では座席が通路のclosureとして機能する構成も扱われています。

さらに背面を保護面として構成したり、その背面にはしごを設けたりする実施形態も示されます。補助席を単なる「座る場所」にせず、操縦室入口での複数の機能を補助席に持たせています。

Airbus Operations SASFIG. 08
ASSIGNEE
Airbus Operations SAS
PRIORITY
2011-09-30
PUBLISHED
2013-05-23
PUBLICATION
US20130126671A1
INVENTORS
Bernard Guering
ORIGINAL

AFTER THE FIGURES

Airbusの客室特許に見る役割の重ね方

8件では「空いている場所」を探すより、設備を単機能のまま置かずに役割を重ねていきます。座席は小さく畳まれ、壁は背もたれになり、ドアは座席を持ち、操縦室の補助席は仕切りやはしごの役割まで引き受けます。

さらに面白いのは、空間の役割を時間で切り替えている点です。離着陸時には空けておきたい場所でも、巡航中だけ階段として使えるなら、同じ床面積を別の設備へ変えられます。客室設計は静的な間取りではなく飛行の段階ごとに組み替わるシステムになります。

特許図面に残っているのは、限られた筒の中をどう使い切るかという執拗な空間設計です。飛行機の中で「ここは座席」「ここは壁」と決めていた境界を、一つずつ曖昧にしていくところにAirbusらしい発明の面白さがあります。

SOURCES

一次資料

  1. US20140159444A1 — Seating device comprising a forward-foldable backrest
  2. US20120292960A1 — Headrest for a passenger seat for an aircraft
  3. US20160355266A1 — Module for an aircraft cabin with a seat fastened to a door
  4. US20150266581A1 — Sleeping box, sleeping box arrangement and aircraft area
  5. US20120193472A1 — Stairway for an aircraft
  6. US20180281972A1 — Functional unit in a passenger cabin, including a support unit and a passenger seat system
  7. US20170043875A1 — Modular lavatory assembly for a vehicle cabin, cabin of a vehicle and aircraft having a cabin and at least one modular lavatory arrangement
  8. US20130126671A1 — Aircraft flight deck comprising a folding seat